起業するときにお金の悩みはつきものです

向こう半年は売上がなくともやっていける、十分な資金がある、と自信をもって言える方はそうはいないかと思います。

そんな起業時に資金調達方法の一つとして補助金・助成金の活用が考えられますが、その活用にはいくつか注意点もあります。 ここでは、起業(開業)時、起業して間もない時期に使いやすい補助金・助成金と、一般的な注意事項について解説します。

補助金・助成金とは

補助金・助成金は国や地方自治体などから、売上拡大や生産性向上といった事業改善や、雇用・労働環境改善などにおける新しい取組を支援するために、その取組にかかる費用の一部が支払われる制度です。融資と異なり、返す必要が無いことが最大のメリットです。

補助金・助成金にはそれぞれの目的、趣旨がありますので、受け取るためにはそれぞれの要件を満たす必要があります。

また、原則として、全額が支給される訳ではなく、補助金・助成金ごとに上限額や支給割合が定められており、支出後の後払いになることも注意が必要です。

後払いが原則ですので、まずはその取り組みにかかる費用を自己負担しなければなりません。ただし、補助金・助成金の採択を受けることで融資を受けやすくなることがありますので、その意味では資金調達に役立つと言えます。

国が募集する補助金・助成金のうち、売上拡大や生産性向上といった事業改善に活用するものを補助金、雇用・労働環境改善をするためのものを助成金とされていることが多いようです。一般的に、助成金は基本的に要件を満たせば交付決定がなされますが、補助金は審査がある場合がほとんどです。この審査の難易度、採択率は補助金の種類や申請時期によって異なります。多くの補助金において、年度内で複数回の募集がある場合は、年度末に近くなる募集回のものより年度の初めの方で募集されるものの採択率が高い傾向がありますので、時期を考慮して申請をするのも1つのテクニックです。

起業前に申請できる補助金・助成金

起業前に申請できる補助金の代表的なものとして、東京都の「創業助成事業」があります。こちらは東京都で起業(開業)を予定していて、一定の要件を満たせば申請することができます。

要件にはいくつかありますが、基本的に誰でも満たすことができるのは、「特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明」です。この要件は、起業(開業)予定の市区町村で異なりますが、創業に関するセミナー等を受けるといったこと等で満たすことができますので、おすすめの方法です。後述の通り、「特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明」を取得しておくと、法人設立の際の登録免許税が半額になる、創業融資で優遇される、あるいは、次項で紹介する「小規模事業者持続化補助金」の上限額が倍増(50万円から100万円へ!)するなどと、お得なことがたくさんありますので、ぜひ取得することをおすすめします。

取得方法は市区町村によって異なりますので、お早めにご確認ください。市区町村の規模によって、取得に係る時間や時期が異なります。

参考:市区町村別の認定創業支援等事業計画の概要(ここに掲載されている市区町村で取得できます。)

東京都以外にも多くの自治体で起業時に利用できる補助金等を用意していますので、起業予定の市区町村や商工会・商工会議所に問い合わせをしてみることをおすすめします。

創業者向け補助金・給付金(都道府県別)

補助金・助成金は申請期間が短いものも多く、制度もすぐに変わります。年度によって似たような名前のものであっても、微妙に申請方法や活用の仕方が異なることもあるので、活用を検討する場合には十分に内容を確認しましょう。

起業したら申請したい補助金・助成金

小規模事業者持続化補助金

起業したらまず申請したい補助金が「小規模事業者持続化補助金」です。

この補助金は比較的少額ですが、集客や販路開拓の目的に活用するのであれば、かなりいろいろな費用を補助対象とすることができ、申請もそれほど難しくないので、はじめて申請する補助金としておすすめです。

また、通常は上限額50万円ですが、前述の「特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明」があり、起業(開業)してからの期間が補助金の定める期限内(申請時期により異なりますので、必ず公募要領を確認しましょう)であれば、200万円に引き上げられるので、起業後可能な限り早く申請しておいた方がよいです。チラシの作成や、ホームページ制作にも使えます。

雇用関係助成金

次に、人を雇って事業を行う場合は、雇用に関する助成金で要件に当てはまるものがないか確認しておきましょう。

雇用に関する助成金は、補助金と異なり、要件を満たせば交付を受けられることがほとんどですので、要件に当てはまる助成金を探すことが重要です。

多くの助成金で「ハローワークを通じて採用」という要件が課されていますので、ハローワークに求人を出すことを忘れないようにしましょう。

事業主の方のための雇用関係助成

補助金申請に必要なこと

申請書類の用意

補助金・助成金を申請するためには、指定された書類を揃える必要があります。

必要書類は補助金・助成金によって異なりますが、必須書類であって多くの方が作成するのに苦労するのが「事業計画書」です。

補助金の目的・趣旨に沿った資金計画を含めた事業計画を、概ね4~10ページ程度で作成することになります。

この事業計画書の作成難易度は、補助金の上限額が上がるほど高くなる傾向があります。その意味でも、前述の小規模事業者持続化補助金は、作成枚数も例年5枚以内程度と少なく、項目も指定されており、記入見本も出回っていますので作成しやすいといえます。とはいえ、書き慣れていない方が書くのは大変だというのも事実です。

他方、助成金については、書く内容自体は決まっているのですが、算出のしかたなどが難しいことが多く、申請代行ができる社会保険労務士が作成することも多いです。

申請書以外の必要書類(登記事項全部証明書など)については一定の期間内に発行されたものが必要な場合もありますので、余裕を持って用意しておきましょう。

自分で揃えられないときは

申請書類の難易度は補助金・助成金によって異なります。まずは、難易度の低いものから挑戦してみましょう。作成を専門家に頼むとしても、計画内容そのものはご自身で考える必要があります。文章や図表を作り、分かりやすく、採択されやすい申請書を作成することは専門家の得意とするところですが、貴社の事業、貴社の目指すところについて一番詳しいのは、やはり貴社自身です。

まずは補助金の目的・趣旨に沿った事業計画が考えられるかどうか検討しましょう。事業計画は考えられるが、それを文書にするのが無理だと思ったら、専門家の支援を受けることも考えてみてはいかがでしょうか。

ただし、補助金の採択自体が目的になってしまうようでは、結果としてよい事業にならない場合も多々あります。

補助金・助成金について気をつけること

申請すれば交付されるとは限らない

助成金は要件を満たせば基本的には交付されますが、補助金は申請後審査を受けて採択されなければ交付されないことがほとんどです。そして、補助金によっては、採択率はかなり低いことがあります。

例えば、東京都の「創業助成事業」の過去の申請者・採択者数をご覧ください。採択率は15~20%程度で決して高くはありません。

採択されるために申請書類を揃えるのにも多大な時間と労力が必要になりますし、そのために本業が停まってしまっては本末転倒です。

補助金を申請する場合は、金額の多寡だけではなく、目的・趣旨にあっているか、労力に見合うかどうか、専門家に依頼する場合はその費用も含めた費用対効果はあるか考えて、選択することが大切です。

基本的に後払い

補助金・助成金は、原則として事業が完了してからの後払いになります。

しかも、事業が完了してから実績報告を提出し、それが審査されて確定後の交付となりますので、数ヶ月はかかります。その間の資金調達ができることが前提ですので、補助金が採択されたら必要に応じて融資を受けるなどの手段を講じておきましょう。

実施要領や手引きに従う

補助金・助成金を利用して行う事業は、ある程度の制約を受けます。補助事業実施の手引きなどが必ず提示されますので、それに従って事業を進めてください。手引きの内容を把握せずに、いざ補助金を受けるための書類提出に必要なものが取得でき(てい)ないなどの理由で、補助金が受けられなくなってしまうなんてことになったら、それまでの苦労は水の泡です。

返還が生じる場合

交付された補助金が返還となる場合もあります。 実施要領や手引きに反することをしてしまった等といった場合などです。補助金によっては、補助事業から利益が生じた場合は、利益の一部を国へ納付することとなっている制度もありますので、申請前に良く確認しておきましょう。

中小企業診断士 島谷健太郎

プラント向け製品メーカー(東証一部上場)勤務の後、2016年に経営コンサルタントとして独立。
独立以降、中小機構や行政支援機関のコーディネーターに従事。
孤独な中小企業経営者・創業者の経営相談者・手を動かす支援者として、これまで300社以上の支援に携わる。
行政施策に明るく、各種補助金や税制等優遇措置施策の申請支援も行う。

得意分野
補助金・助成金等制度活用、事業計画策定、業務改善

メッセージ
自社に活用できる制度を知ることから始め、活用できるものはどしどし活用しましょう。

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