前回は、生成AIに「負けた提案書」を学習させても、勝てるようにはならないというお話をしました。

負けた提案書には、何を書いたかは記録されていますが、なぜ負けたのかという理由まで記録されているわけではありません。それは別途分析が必要です。

失注原因を分析しないまま過去の提案書を生成AIに蓄積すれば、勝つための知見ではなく、自社の負け方の癖が蓄積され、延々と繰り返される可能性があります。

それでは、負ける理由を自社で説明できない企業は、まず外部の専門家に提案書を分析してもらえばよいのでしょうか。

費用を別にすれば、それが一番簡単で楽な方法です。
ところが、実際に外部分析を導入しようとすると、社内から反発が生じることがあります。

経営層は「負ける理由を知りたい」

公共入札に何度も参加しているものの、なかなか落札できない。

提案書の作成には、多くの社員が関わります。営業担当者だけでなく、技術部門や管理部門、場合によっては役員まで提案に関わります。つまり、膨大な時間と人件費がかかっているということです。

それでも、勝率が上がらない。経営層にとっては、コストの垂れ流しです。なんとしてでもその状態を止めなければなりません。

それなのに、社内で提案書を振り返ってみても、明らかな不備は見つからない。要求された項目には一通り回答しており、文章もそれなりに整っているように見える。でも、なぜか評価されない。

このような状況が続けば、経営層が次のように考えるのは自然です。

  • 自分たちだけでは、負ける理由を特定できないのではないか?
  • 外部の専門家に提案書を分析してもらい、落札した提案との違いや、自社が繰り返している問題を明らかにした方がよいのではないか?

これは、現場の能力を否定するための判断ではありません。

会社として提案活動を続けるのであれば、失注原因を特定し、次回以降の勝率を上げる必要があります。そのために、自社内とは異なる知見や視点を取り入れようとしているだけです。ごく当たり前のことです。

ところが、経営層が外部分析を検討し始めると、提案書を作ってきた現場が反発することがあります。

現場は外部分析を「自分たちへの否定」と受け取る

外部の専門家による提案書分析は、現場にとって気持ちのよいものではありません。

自分たちなりに考え、時間をかけて作った提案書に対して、外部の人から問題点を指摘されるからです。

分析の結果、これまで正しいと信じてきた考え方が、評価側からすればズレていたと指摘されるかもしれません。
自社の強みとして繰り返し書いてきた内容が、発注者にとっては重要ではなかったと分かるかもしれません。
現場が高く評価していた提案書について、自己満足だったと感じるかもしれません。

このような可能性を前にすると、外部分析が業務改善ではなく、次のような意味に受け取られることがあります。

  • 自分たちの能力を信用されていない。
  • これまでの提案活動を否定される。
  • 社内で蓄積してきた経験に価値がないと言われる。
  • 経営層から責任を追及される。

その結果、現場から次のような意見が出てきます。

  • 自分たちの提案は、そこまで悪くない。
  • 外部の人に当社の事業や技術は分からない。
  • わざわざ外部に依頼しなくても、自分たちで改善できる。

こうして、外部分析の必要性ではなく、現場が自分たちの仕事を守ることが議論の中心になっていきます。

「自分たちで改善できる」という反発

もちろん、自社で改善できるのであれば、それに越したことはありません。

提案する案件ごとに振り返りを行い、評価結果を分析し、次回の提案に反映できる体制が社内にあるなら、必ずしも外部分析は必要ありません。

しかし、ここで確認すべきことがあります。

本当に自分たちで改善できているのであれば、なぜ勝率が低い状態が続いているのでしょうか?

なぜ負けたのかを説明できず、何度も同じような失注を繰り返しているのであれば、これまでの改善方法が機能していないと考えるのが自然です。

それでも「自分たちでできる」と考える場合、その判断は客観的な実績ではなく、現場の感情に基づいているかもしれません。

  • 自分たちで提案書を作ってきたからこそ、自分たちが一番よく分かっている。
  • 自社のサービスや技術については、外部の人より自分たちの方が詳しい。
  • 長年、公共入札に参加してきたのだから、社内には十分な知見がある。

いずれも、もっともらしい主張です。

ただし、自社の事業や技術に詳しいことと、その内容を公共入札で高く評価される提案に変換できることは別です。

また、公共入札への参加経験が長いことと、勝つための知見が蓄積されていることも同じではありません

失注原因を特定できていないのであれば、参加回数が増えるほど、誤った提案方法を繰り返している可能性もあります。

生成AIが都合のよい代替策として現れる

このような状況で、生成AIが登場します。

過去の提案書や仕様書、評価基準を生成AIに読み込ませれば、自社だけでも分析できるのではないか?

生成AIに改善案を出させれば、外部の専門家に依頼しなくても、今後は提案書の品質を上げられるのではないか?

生成AIは、現場にとって非常に都合のよい選択肢になります。外部の専門家に提案書を評価されずにすめば

  • 自分たちの判断を否定されずに済む。
  • 社内の知見を活用していると説明できる。
  • 新しい技術によって改善に取り組んでいると示せる。
  • 外部分析にかかる費用を抑えられる。

一見して、良いことばかりです。
こうして、生成AIは提案書を改善するための道具ではなく、負ける理由を外部から指摘されることを避けるための道具になってしまうことがあります。

問題は、生成AIを使うことではありません。外部分析を避けることが先にあり、その代替策として生成AIが選ばれていることです。

AI導入によって「改善している」という安心感が生まれる

生成AIを導入すれば、目に見える変化が起こります。

従来より短時間で提案書の案を作成できるようになります。

文章が読みやすくなり、構成も整います。過去の提案書から使えそうな内容を探し出し、今回の案件に合わせて書き換えることもできます。

そのため、現場だけでなく、経営層にも「改善が進んでいる」という印象を与えます。

生成AIを提案業務に導入し、過去の提案書を蓄積することで、

  • 提案書作成の時間を短縮した。
  • 社内の提案ノウハウを属人化せずに活用できるようになった。
  • AIを使って継続的に改善している。

というような、社内に説明しやすい成果がだせます。

しかし、提案書の作成方法を変えたことと、勝てない原因を解消したことは同じではありません。

失注原因が分かっていなければ、生成AIに何を直させるべきかも分かりません。

また、AIが改善案を出しても、その案が評価を上げるために有効なのかを判断できなければ、従来の社内方針に近い案や、もっともらしく見える案が選ばれます。

変わったのは作業方法だけかもしれない

例えば、これまで自社が伝えたい技術的な内容を優先し、発注者が知りたい情報への回答が不足していたとします。

生成AIを使うことで、技術的な説明は以前より分かりやすくなるでしょう。

しかし、発注者が求めている内容への回答が不足しているという根本的な問題は残ります。

また、実現可能性を裏付ける根拠が弱かった場合、生成AIによって文章が洗練されても、客観的な根拠そのものが増えるわけではありません。

一般的な取組を案件固有の提案であるかのように書いていた場合、その一般論が、以前より説得力のある文章になるだけかもしれません。

つまり、生成AIによって作られるのは、

分かりにくい負ける提案書

から、

分かりやすく整った負ける提案書

への変化かもしれないのです。

それでも、提案書の見た目や作成速度には明確な変化が表れるため、社内では改善に成功したように見えます。

その結果、本当に必要だった失注原因の分析が、さらに先送りされることになります。

外部分析を避けることで、何が守られるのか

外部の専門家による分析を見送り、生成AIによる内製改善を選べば、現場は痛みを引き受けなくて良くなります。

これまでの仕事について、外部から厳しい評価を受けることもありません。
現場の主導権も維持されます。
経営層に対しても、生成AIを活用した改善活動を進めていると説明できます。

しかし、合理的な根拠がないまま外部分析を避けるのであれば、その判断によって守られるのは、会社の利益ではなく、これまでの提案方針に対する現場の自信や自尊心かもしれません。

プライドを持って仕事をすること自体は大切なことです。問題は、プライドを守ることが、失注原因を明らかにすることより優先される場合です。

提案書の分析は、担当者の人格や努力を評価するために行うものではありません。提案内容がどのように評価されるのかを検証し、次の案件で同じ失敗を繰り返さないために行うものです。それを避けて自分たちのプライドを守ろうとしても、長期的には良い結果にはつながりません。

その代わりに企業が失うもの

外部分析を避けることで、分析にかかる費用は削減できます。

しかし、その代わりに企業が失う可能性のあるものは、分析費用よりもずっと高くつきます。

  • 落札していれば得られた売上
  • 次の案件につながる公共分野での実績
  • 提案に参加した社員の意欲
  • 提案書作成に使用する社内リソース
  • 同じ期間に取り組めたはずの別案件

失注原因を分析しないまま、毎回同じような方法で提案を続ければ、損失は積み重なっていきます。

生成AIによって提案書を作る時間が短くなったとしても、落札できなければ受注による利益は得られません。

むしろ、以前より多くの案件に効率よく参加できるようになり、同じ原因で失注する件数だけが増える可能性もあります。

外部分析の費用を避けた結果、それを大きく上回る提案コストがかかったり、受注機会を失うことになるかもしれません。

現場を否定することと、提案書を分析することは違う

外部の専門家に提案書を分析してもらうことは、現場の能力や努力を否定することではありません。

提案書の作成には、自社のサービス、技術、実績、体制についての詳細な知識が必要です。それらは社内でしか持ち得ません。

一方、評価基準との対応や、発注者からどのように読まれるかを検証するためには、自社内とは異なる視点が必要になることがあります。

社内で当然だと思われていることほど、外部から見ると説明が不足している場合があります。
現場が強みだと思っていることが、評価点につながらない場合もあります。
長年使ってきた提案の型が、現在の案件には適していないこともあります。

外部分析は、現場の知見を捨てることではありません。

現場の知見が、公共入札で評価される形に変換されているかを確認するためのものです。

提案書の問題点を指摘されたからといって、担当者の能力やこれまでの努力まで否定されたことにはなりません。

この二つを切り分けられるかどうかが、改善を進められる組織と、同じ失敗を繰り返す組織の分かれ目になります。

まとめ

外部から負ける理由を指摘されることには、痛みが伴います。

これまで正しいと思っていた判断が、実際には評価につながっていなかったと分かるかもしれません。

何年も続けてきた提案方法を、見直さなければならないかもしれません。

社内の責任者が高く評価していた提案書に、大きな問題があると分かるかもしれません。

しかし、公共入札で勝率を上げるためには、何が間違っていたのかを明らかにしなければなりません。

負ける理由を知らないまま提案を続ければ、失注による損失は今後も続きます。

企業が比較すべきなのは、

外部から問題を指摘される痛み

と、

原因が分からないまま、数年間にわたって失注を繰り返す損失

です。

指摘を受けることは、一時的には不快かもしれません。 しかし、失注によって失われる売上、社内工数、実績、次の受注機会は、会社全体が負担することになります。

「また今回もダメだった…」入札の失敗、そのままにしていませんか? 原因を特定し、次こそ勝つための第一歩を。
「技術点が伸び悩んでいる」、「評価基準の意図が掴めない」…そんなお悩みを解決しましょう。

元・行政の調達担当者が貴社の提案書を分析し、「勝てる提案書」への改善ポイントをご指摘し、勝つための戦略をご提案します。

公共入札への本格参入をご検討の企業さま向けに、サービス導入前の最終確認を行う「導入相談(45分)」をご用意しています。

▼ この「サービス導入相談」で確認できること

導入前に必要な点を45分で整理します。無理な勧誘はいたしません。

いきなり相談する前に、ご検討用の資料が必要な方へ

弊社の公共入札サポートサービスに関する資料(サービス全体、各サービスの概要1枚資料及び詳細資料)をダウンロードしていただけます。
資料のダウンロード後に、弊社から営業のお電話などはいたしません。

その他、役立つ情報

このブログ記事が、官公庁入札で成功を目指す皆様にとって少しでも役立つ情報となれば幸いです。

公共入札



サポート
サービス

\

貴社の案件獲得


加速する

/

発注者視点の
入札攻略法で

貴社の
ビジネスの成功をサポートします

投稿者プロフィール

若林凜
若林凜
神奈川県内の地方自治体で
・総務(文書管理、議会対応)
・システム運用(教育、福祉、医療)
・会計(出納、資金管理、下水道企業会計)
・監査(社会福祉法人)
・小規模企業支援、労働行政、起業支援
に携わった後、2020年に業務改善系ITコンサルタントとして起業(神奈川県小規模企業支援強化事業コーディネーター)
現在、株式会社TheFlow代表取締役

Follow us!