生成AIに過去の提案書を蓄積すれば、「知見」がたまる?

「今は勝てないけれど、数ヶ月、数年続けていけば、(生成AIに)知見がたまっていって、勝てるようになると思っています」

生成AIで提案書作成を改善したいという企業様から、何度か同じお話を聞きました。

  • 過去の提案書を生成AIに読み込ませれば、社内の提案ノウハウを蓄積できる。
  • 案件を重ねるほどAIが賢くなり、いずれ提案書の品質も上がる。

一見、正しいように思えますが、本当にそうでしょうか?

生成AIに蓄積される提案書の多くが「負けた提案書」だった場合、それは本当に勝つための知見になるのでしょうか。

負けた提案書には「なぜ負けたか」は書かれていない

言われてみればそうですよね。失注した提案書から分かるのは、基本的に「何を書いたか」です。

評価基準や仕様書と併せて分析させてみても、生成AIは、入力資料に書かれていない「正解」を知っているわけではありません。

  • 評価基準の読み解き方は正しかったか。
  • 発注者の課題は正しく不足なく理解できていたか。
  • 自社が強みだと思っていたことは本当にそうだったのか。
  • そもそも参加すべき案件だったのか。

このようなことについて、社内に正解を持っていない状態で、AIが自動的に正解を提示してくれるわけではありません。

特に、自社内に客観的な分析結果が存在しない場合、AIに与えられる判断根拠は

  • 自社が正しいと考えている提案方針
  • 提案担当者による自己評価
  • 根拠のない失注原因の推測

などになりがちです。

蓄積されるのは「知見」ではなく、負け方の癖かもしれない

勝率が低いチームの提案書には、勝率が低い原因が繰り返されている可能性があります。

例えば、

  • 発注者が知りたいことより、自社が伝えたい内容を優先している。
  • 一般的な取組を並べるだけで、案件固有の提案になっていない。
  • 実現可能性を裏付ける根拠が弱い。
  • 評価者が点を付けられる具体的な記載になっていない。
  • 重要ではない項目に多くの紙幅を使っている。

などです。

この状態で過去資料を生成AIに与えると、AIはそれらの傾向を「その企業らしい提案」として提案書作成に利用する可能性があります。

このようなことにならないように、誤った「知見」を蓄積してしまわないように、AIに学習させる前に社内で提案書を分析し、蓄積すべき知見と修正すべき事項を切り分けておく必要があります。

「以前より良い文章」が、改善したという錯覚を生む

生成AIの活用で効果が出やすいのが、文書としての体裁です。誰が見ても分かりやすい部分に、簡単に良い変化が起こります。

  • 文章が読みやすくなる。
  • 構成が整う。
  • 表現のばらつきが減る。

などです。

そのため、社内では「提案書の品質が上がった」と評価されやすくなります。

しかし、これは落とし穴です。

文書として整っていることと、提案書として評価される内容は別です。

生成AIによって構成が明確になり、文章が洗練されても、発注者の課題への理解不足や仕様書や評価基準の読み違いから来る提案戦略の誤りが残っていれば、落札にはつながりません。むしろ文書としての体裁が整っていることで、根本的な問題が見えにくくなる可能性もあります。

何を正解としてAIの出力を評価するのか

AIを使って提案書を改善するには、AIの出力を評価する側に判断基準が必要です。

例えば、AIが複数の改善案を出したとき、社内で次のことを判断できるでしょうか。

  • どの提案が発注者の課題に対応しているか。
  • どの記載なら評価者が評価しやすいか。
  • どの内容に実現可能性があるか。
  • どこに客観的な根拠を追加すべきか。
  • 何を削り、何に紙幅を使うべきか。

この判断ができなければ、AIが出した案の中から、従来の自社方針に近いものや、もっともらしく見えるものを選ぶことになります。

それでは、AIを導入しても、勝率を上げることにはつながりません。

順番を間違えると、失敗が高速で再生産される

分析なしで過去の提案書を蓄積する。

STEP
1

それに基づいてAIに改善案を作らせる。

STEP
2

AIが負け癖を含んだ提案書案を作成する。

STEP
3

社内の従来基準で案を選ぶ。

STEP
4

同じ理由で失注する。

STEP
5

その提案書も新たな「知見」として蓄積する。

STEP
6

これを繰り返すと、失注した提案書が増えるほど、誤った提案パターンが社内の標準として固定される危険があります。負ければ負けるほど、負ける可能性が高くなっていきます。しかも、以前よりも効率的に素早く、負ける提案書を作成できるので、受注による利益は出ないのに提案コストばかりがかさんでいきます

こうならないように、まずは提案書を分析し、失注原因を特定しましょう。その上で、正しい判断基準を社内に作り、その判断基準に基づいてAIを活用する必要があります。

まとめ

生成AIに過去の提案書を読み込ませれば、資料は蓄積されます。しかし、資料が増えることと、勝つための知見が増えることは同じではありません。

特に、負けた理由を自社で説明できない状態では、どの提案を知見として継承し、どの提案を修正すべきかも判断できません。そのまま生成AIを活用すれば、これまでの問題を残したまま、見た目だけが整った提案書が作られる可能性があります。

生成AIは、正解を知らない組織に正解を与える装置ではありません。
負けた提案書を幾ら学習させても、負けた理由を正しく分析しなければ、失敗がより速く、より整った形で再生産されるだけです。

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投稿者プロフィール

若林凜
若林凜
神奈川県内の地方自治体で
・総務(文書管理、議会対応)
・システム運用(教育、福祉、医療)
・会計(出納、資金管理、下水道企業会計)
・監査(社会福祉法人)
・小規模企業支援、労働行政、起業支援
に携わった後、2020年に業務改善系ITコンサルタントとして起業(神奈川県小規模企業支援強化事業コーディネーター)
現在、株式会社TheFlow代表取締役

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